概念データモデルとは?
概念データモデル(Conceptual Data Model)とは、ビジネス要件に基づいて情報の構造や関連性を抽象的に表現するモデルであり、システムの開発やデータベース設計の初期段階で用いられる設計図である。技術的な詳細(データ型や制約)を排除し、業務視点でのデータの意味や関係性に焦点を当てる。
ある物流企業で、配送管理システムを刷新することになった。現場では「ドライバーが配送先でサインをもらったかどうか」の記録がアナログで、集計に毎日時間がかかっていた。そこで導入されたのが概念データモデルだった。ドライバー、配送、顧客、荷物といったエンティティを洗い出し、リレーションを図にしたところ、業務担当者が「この関係なら配送の追跡も簡単にできるね」と納得。可視化されたモデルが業務改善の第一歩となった。
1. 概念データモデルの目的
- 業務の構造理解を助ける:現場の業務やプロセスの中で、どのような情報が管理されるべきかを明確にする。
- 関係者間の共通認識形成:ビジネス担当者、開発者、アーキテクトが同じ視点で会話できる基盤を作る。
- 後続工程への橋渡し:論理モデルや物理モデルへの設計をスムーズに進めるための準備資料となる。
2. 概念データモデルの構成要素
- エンティティ(Entity):情報の対象(例:顧客、製品、契約など)
- 属性(Attribute):そのエンティティが持つ情報(例:顧客名、電話番号、契約日など)
- リレーションシップ(Relationship):エンティティ同士の関連(例:顧客は複数の契約を持つ)
例:不動産管理業務では、「物件」「オーナー」「入居者」「契約」などがエンティティとなり、それぞれの関係を「所有する」「賃貸契約を結ぶ」などのリレーションで表現する。
3. 実際のビジネスでの適用例
ある保険会社では、新しい顧客管理システムの開発に向けて、まず概念データモデルの作成から着手した。業務担当者との対話を重ねながら「顧客」「契約」「保険商品」「請求」などの主要な情報を整理し、図に落とし込んだ。結果として、業務の全体像が明確になり、部門間の連携強化や、新人教育資料としても活用された。
特に印象的だったのは、現場スタッフが「このモデル図、研修資料にも使えそうですね」と発言したことだった。複雑だった業務が一枚の図で整理されることで、チームの理解が一気に深まったのだ。
4. 概念データモデルの作成ステップ
- 業務要件のヒアリング
- 管理すべき情報(実体)を洗い出す
- それぞれの属性を定義
- エンティティ間の関係を整理
- ER図として視覚化
- 関係者レビューと改善
あるプロジェクトでは、営業部門が「顧客」を1つのエンティティとして扱っていたが、設計チームとの議論で「法人顧客」と「個人顧客」を分ける必要性が見えてきた。こうした議論を経て、より現実に即した設計が生まれていった。
5. 概念モデルと他モデルとの違い
モデル種類 | 目的 | 特徴 |
---|---|---|
概念モデル | ビジネス視点で情報構造を把握 | データ型や制約は記載しない |
論理モデル | 概念モデルを基に技術的に拡張 | 正規化やキー設計が含まれる |
物理モデル | 実DBに実装するための詳細設計 | テーブル構成やインデックス設計 |
6. 概念モデル作成時の注意点
- エンティティは名詞で、関係は動詞で表現する
- 実務で意味を持つ実体に限定する(曖昧な抽象物は避ける)
- 業務フローや組織構造と照らし合わせながら整理する
- 言葉の定義を揃える(例:「顧客」と「ユーザー」の違いなど)
また、ある製造業のプロジェクトでは、「製品」と「部品」の関係が多対多であることに気づき、中間エンティティ「構成部品」を導入することにより、より正確な設計が可能になった。
まとめ
概念データモデルは、ビジネスの世界とシステムの世界をつなぐ「設計の最初の橋」である。業務の理解を深め、全体像をつかむためには欠かせないツールであり、設計ミスを防ぐ予防策としても極めて有効である。
技術に詳しくない関係者でも理解できる図だからこそ、早い段階で多くの視点を取り入れながら作成することが、プロジェクト成功のカギとなる。
そして何より、概念モデルは対話のきっかけを作ってくれる。言葉では伝えにくい業務の仕組みや背景を、図を通して共通言語に落とし込む。それが、システムと人の距離を縮める第一歩となるのである。