Cassandraにおけるデータモデリングの基本
Apache Cassandraは、高いスケーラビリティと可用性を持つ分散型NoSQLデータベースである。AmazonやNetflixなど、ミッションクリティカルな大規模アプリケーションで広く採用されており、特に書き込みが多く、地理的に分散されたデータ処理に強みを持つ。
1. Cassandraの特性
- マスター・スレーブ構成ではなく、完全なP2P(Peer to Peer)構造
- 可用性とパーティション耐性を重視(CAP定理)
- スキーマは固定型だが、列単位で柔軟に拡張可能(ワイドカラムモデル)
- データは自動で複数ノードにレプリケートされる(高可用性)
あるメッセージングサービスでは、全世界のチャットメッセージを1日10億件以上処理しており、Cassandraによって高い耐障害性とリアルタイム性を両立している。
また、大手航空会社の予約エンジンでは、出発地・目的地・時刻といったクエリに即時対応するため、複数のCassandraクラスターが地域ごとに構築された。データセンター障害時にも他リージョンが即時フォールバックでき、業務継続性が高く評価された。
2. モデリングの基本原則:クエリファースト設計
Cassandraの最大の特徴は「正規化よりもクエリパターンを重視したモデリング」である。
- RDBMSのようなJOINは存在せず、1テーブル1クエリ原則が基本
- データは必要に応じて複製・冗長化(同じ情報を複数テーブルに持つことが許容される)
- 読み取りが高速になるよう設計する(逆に、書き込みは常に高速)
あるECサイトでは、「商品別の注文履歴」「ユーザー別の注文履歴」「日別の注文集計」など、目的に応じた3つのテーブルを用意。データ重複は発生するが、クエリごとの即時応答性とユーザー体験が最優先された。
3. モデリング構成要素
- パーティションキー:データの分散単位。Cassandraにおける“シャーディング”の基礎
- クラスタリングキー:パーティション内でのデータの並び順を決定
- テーブル設計:ユースケースごとに最適なテーブルを個別設計
- タイムスタンプ:時系列データを効率よく格納・取得するために活用
4. モデリング事例:IoTデバイスログ
時系列データは最新順で並べる設計とし、デバイスごとの最新状態を効率よく取得可能に。
また、ダッシュボード表示用には別テーブルで「日別の平均値を格納するサマリーテーブル」を用意することで、分析処理とリアルタイム性を両立。
某都市のスマートメーターシステムでは、気温と消費電力の傾向分析にこの手法が用いられ、ピーク時の電力供給判断に貢献した。
5. よくある課題と対策
- JOINや複雑な集計ができない → 必要なデータは事前に整形・複製する
- ホットパーティションの発生 → キーの分散設計とTTL設定で負荷分散
- クエリを想定せず設計した結果、読込性能が低下 → 常にアクセスパターンから設計開始する
ある動画ストリーミングサービスでは、人気番組の視聴ログが特定パーティションに集中し、ノード負荷が偏る問題が発生。プレフィックス付きキー(user_region:video_id)で均等化し、対応した。
まとめ
Cassandraのデータモデリングは、従来のRDBMSとは異なり「データの正しさ」ではなく「高速かつ安定したアクセス」を第一に考える設計思想である。
JOINや正規化に慣れたエンジニアにとっては逆説的だが、だからこそ「どのように使うか」から逆算して設計する力が磨かれる。
大量データとリアルタイム処理を支えるCassandraは、現代のデータ設計者に「スケーラブルな思考」と「クエリ主導のモデル化」という新しい視座を提供してくれる。