AWSにおけるデータモデリングの実践ガイド
AWS(Amazon Web Services)におけるデータモデリングとは、クラウド上で提供される様々なデータベース・分析・ストレージサービスを活用して、ビジネスニーズに応じた柔軟かつスケーラブルなデータ構造を設計することである。
オンプレミス時代とは異なり、ストレージコスト・性能・拡張性・レイテンシ・アクセス頻度・用途(取引 vs 分析)など、複数の観点を踏まえたアーキテクチャ選定とモデリングが重要となる。
1. AWSの主要なデータ関連サービス
- RDS(Relational Database Service):MySQL, PostgreSQL, Oracle, SQL Server などのマネージドRDBMS
- Amazon Aurora:RDS互換の高性能データベース(PostgreSQL/MySQL)
- DynamoDB:スケーラブルなNoSQLキーバリューストア。サーバーレスでミリ秒応答
- Amazon Redshift:大規模な分析処理に最適なDWHサービス
- Amazon S3:構造化・非構造化を問わず、あらゆるデータを格納するストレージ
- AWS Glue:ETL/データカタログ/スキーマ管理
- Athena:S3に保存されたデータに対してSQLクエリを実行
2. モデリングの選定軸と考え方
AWSでは「すべてを1つのDBにまとめる」設計ではなく、用途別・アクセス頻度別・可用性別に設計分離するのが前提となる。
- トランザクション向き:Aurora / RDS
- 超低レイテンシな処理:DynamoDB(キャッシュはElastiCache)
- 分析向け:Redshift、Athena、S3+Glueパイプライン
- センサーデータやログ系:S3+Kinesis Firehose、Glue Table、Athena
- マスタ系:RDS + DMSでRedshift連携
例えばECサイトでは、商品情報やユーザー情報はAuroraで管理し、注文履歴やアクセスログはDynamoDBとS3で処理。定期的にGlueで整形・ETLし、RedshiftやAthenaで分析する。
3. 各サービスにおけるモデリング実践例
DynamoDBモデリング
- パーティションキーとソートキーを活用してリレーションを疑似的に表現
- 非正規化とアクセスパターン駆動設計が原則
- GSI(Global Secondary Index)で柔軟な検索パターンを確保
Redshiftモデリング
- スター型スキーマ(ファクト+ディメンション)をベースに設計
- ソートキーとディストリビューションキーでクエリ性能最適化
- マテリアライズドビューやLate-binding viewも活用
S3+Glue+Athena モデル
4. データ統合とETLパターン
- Glueジョブ:SparkベースでスケーラブルにETL
- Lambda + Step Functions:イベント駆動型ETL処理
- DMS(Database Migration Service):RDSやオンプレDBをRedshift/S3へ複製
- Kinesis Firehose:リアルタイムデータをS3やRedshiftへストリーミング挿入
SaaS企業では、全ユーザーのアクションログをKinesis経由でS3に保管し、Glueで日次集計処理後、Athenaを用いて月次レポート作成とBI連携を行っている。
5. 実用事例:モダン分析基盤の構築
- マスタデータ:Aurora PostgreSQLで管理
- 取引データ:DynamoDBにてリアルタイム処理
- ログ・履歴:S3にParquet形式で保存
- ETL:Glue + Step Functions + Lambda
- 分析:Athena, Redshift, QuickSightで可視化
ある小売業では、在庫の変動をDynamoDBで記録し、1時間ごとにGlueがS3に転送。Redshiftで集計された在庫残量をQuickSightで店舗別に可視化し、機械学習による補充提案へとつなげている。
まとめ
AWSにおけるデータモデリングは「単なるテーブル設計」ではなく、ストレージ階層、アクセス設計、可用性設計、データ処理アーキテクチャすべてを統合的に考慮した“クラウド時代の情報設計”である。
データのライフサイクル、リアルタイム vs バッチ、非構造化 vs 構造化、分析 vs 取引という多様な軸を理解し、複数サービスを適材適所に組み合わせる設計力が求められる。
そしてAWSの強みは「選択肢の多さ」ではなく、「最適な道を選べる自由」にある。