効果の概要

介入 筋の酸素利用効率を高める目的で、運動の2〜3時間前に硝酸塩を多く含むビートルートジュースを摂取する
アウトカム 高強度の持久系ランニングまたはサイクリングにおける疲労困憊までの時間
効果量 相対値で4〜10%の増加
確からしさ メタアナリシス
対象 高強度の疲労困憊テストを行うレクリエーションレベルおよび訓練を積んだ持久系アスリート

出典

硝酸塩から一酸化窒素へ

ビートルートジュースは、食事由来の無機硝酸塩を最も高濃度に含む食品のひとつだ。摂取された硝酸塩は血中に吸収され、唾液腺に濃縮された後、口腔内の細菌によって亜硝酸塩に変換される。飲み込まれた亜硝酸塩はさらに還元され、血管を弛緩させて活動筋への血流を改善する一酸化窒素になる。運動生理学の観点から重要なのは、一酸化窒素がサブマキシマル強度の運動における酸素コストを下げ、ミトコンドリア呼吸の効率を高めると考えられている点だ。「より多くの酸素を届け、無駄になる酸素を減らす」というこの組み合わせが、ビートルートジュースが持久系パフォーマンス研究で頻繁に取り上げられる背景にあるメカニズムだ。

どれだけ長く運動を続けられたか

対照試験を統合した結果では、硝酸塩を除去したプラセボと比較して、疲労困憊までの時間は相対値で4〜10%改善するという範囲に収まっている。実際の感覚としては、これまで10分間ハードな運動を続けられたアスリートであれば、それがおよそ10分24秒〜11分程度まで延びる計算になる。この効果が確認されているのはほぼ、5〜15分で疲労困憊に至るような高強度の一定負荷テスト(サイクリングやランニング)に限られており、超長距離や非常に低強度の条件では、酸素コストの改善というメカニズムが働く余地が小さいため効果が確認されにくい。

2〜3時間前という摂取タイミング

このタイミングは付随的なものではなく、効果の中心をなす要素だ。血漿中の亜硝酸濃度は摂取からおよそ2〜3時間後にピークを迎え、この時間帯にエルゴジェニック(パフォーマンス向上)効果が最も一貫して観察されている。ウォームアップの直前や競技前夜に摂取しても、この生理学的なピークの窓を逃してしまう。プロトコルによっては、大会前3〜6日間にわたって摂取を続け硝酸塩の体内貯蔵量を高める「ローディング」を用いる場合もあるが、運動の2〜3時間前に単回摂取する方法が、元となる試験の中で最も研究され、再現性が確認されているアプローチだ。

効果が出やすいのは誰か

この効果はすべてのアスリートで一様というわけではない。レクリエーションレベルや中程度に訓練を積んだ人は、エリートクラスの持久系アスリートよりも相対的に大きな改善を示す傾向がある。エリートアスリートは長年の有酸素トレーニングによって、すでにベースラインの一酸化窒素産生能力が高いことが多いためだ。この「天井効果」により、クラブレベルのランナーやサイクリストは統計的に4〜10%のレンジの上限付近に位置しやすい一方、全国レベルのアスリートが得られる恩恵は小さくなりがちだが、それでも競技結果に影響し得る水準ではある。

摂取量とビートルートジュース利用の実際

試験で一般的に用いられているのは、硝酸塩をおよそ300〜600mg含む濃縮ビートルートジュースのショットで、濃縮タイプの「ショット」製品なら約70〜140ml、生ジュースならより多い量に相当する。ビート丸ごと、パウダー、ジュースのいずれも硝酸塩を供給できるが、濃度は製品や栽培条件によって大きく異なるため、特定の摂取源そのものよりも、摂取量を毎回一定に保つことのほうが重要だ。摂取タイミングの前後で殺菌力の強いマウスウォッシュを使うのは避けたほうがよい。硝酸塩から亜硝酸塩への最初の変換を担う口腔内細菌を殺してしまい、この経路全体の働きを弱めてしまう可能性があるためだ。

エビデンスが曖昧な部分

すべての研究で有意な効果が確認されているわけではなく、試験間のばらつきは実際に存在する。運動様式(サイクリングかランニングか)、体力レベル、摂取量、テストプロトコルはいずれも結果を左右する要因だ。消化器系の不快感、無害な赤色尿(ビーツリア)、口腔内の硝酸塩還元菌叢の個人差なども、反応が強く出るアスリートとほとんど出ないアスリートがいる理由に関わっている。4〜10%という数値は、メタアナリシスに含まれた試験を統合した平均値であり、特定の選手や特定のレース当日の結果を保証するものではない。

このエビデンスの妥当な使い方としては、レースの強度を模したトレーニングセッションで運動の2〜3時間前にビートルートジュースを摂取するプロトコルを試し、複数回にわたって自分自身の疲労困憊までの時間やタイムトライアルの結果を記録し、自分の生理反応において効果が確認できて初めて本番の競技に持ち込む、という進め方が考えられる。